▼登場人物と物語を形づくる陰陽五行思想と図像イメージ
小龙虾,司徒静 (静の左側は青)
尹框,皇帝 朱允 (朱雀は皇帝の居るところ)
白玉, 白云飞 (正装の紋は虎)
というところで、青龍、朱雀、白虎・・・四神相応??と思う。
では玄武は何者か?
白玉が小龙虾にあげてしまう、腕飾りである。
手首を通す輪の部分から長い鎖が伸びていて、親指にかける小さい輪がついている。
これが、亀と蛇がからまりあう玄武の形を模している。
青龍が小龙虾・司徒静、というように朱雀、白虎も陰陽2つの面を持っているので、玄武もそれとならっているべきである。
そうなると、雲南王、離恨天。彼らが実は腕飾りを通じてつながる一対であることが後半明らかになる。
さらに
文媚儿,安寧公主,司徒剣南,文蔷,梁君卓,万人敵,文韜,太后,文章,斉国侯・・・
脇を固める彼らも、衣装、小道具、メイクなどに表れる中華圏の図像イメージから陰陽五行思想での位置を当てはめ、人物像を説明できるようなのだ。
これら陰陽五行と図像は物語の流れも形作っている。
▼加えて興味深いのが、行動を運命付ける文字と言葉の力である。
このドラマには、なんでこんなシーンが? なんでこの人はこんな行動を? という少々違和感を感じさせる場面がところどころに挿入されている。(例えば、
白雲飛登場にまつわる語 を参照。派手な登場シーンの中に物語の展開や人物の性格が・・・)
はじめはストーリーを追うのに懸命で気づかなかったが、繰り返して観るうちに、以前出てきた行動そのものを説明する慣用句が後の場面で出てきたり、冗談や定型の言い回しが後でほんとのことになっていることに気づいたり、場面や人物を解読できる俗語や成語を辞書で見つけたりすることが数多くあって、この作品世界は文字と言葉と図像に支配されている、と確信した。
九連環が完全に解けた!という爽快感だ。
▼「仁」か「法」か「私」か
さらに物語を突き詰めていくと、なかよくけんかしているように見える小龍蝦/司徒静と朱允が儒家思想と法家思想のせめぎあいでもあることがわかってくる。
小龍蝦/司徒静の行動が『論語』で重んじられる仁を、
皇帝朱允の為政が『韓非子』の信賞必罰を、その心構えが『苟子』の礼を体現しており、
この二人は対照となっている。
白雲飛はその対極として私心・俗心のある小人、現代的な倫理観のふつうの人、である。
(「仁」「礼」などは、陰陽五行でも位置づけがされている。)
「仁」は世の中に実現できるのか、「法」で国は治められるのか、「私心」で貫く愛は真か。
或いは、「仁」で国を、「法」で愛を、「私心」で世を動かせるか。
▽こうしてみてくると、星の名前を借りた「美少女戦士セーラームーン」どころではない。
チェスをモチーフに少女の成長を描き言葉遊びも多彩な「鏡の国のアリス」のように、複雑なのである。
文体と時間をもてあそぶ「ユリシーズ」にも通じる魔力の強さだ。(かく言うわたしはこれらの作品を語れるほどには知らない・・・^_^ゞ)
本来のストーリーと人物を支える裏のモチーフの凝りようから「○○」ばりに、それを超えて、という例として、どの作品がぴったりくるかなあ?
これらの要素を最大限に生かす方法として毎週少しずつ起伏を作れるこの連続ドラマが最適の表現方法だったと思う。
二時間の映画だとさほど多くの要素を描きこめないし、映像だとさらりと巧みに隠すこともできる情報も文字表現が全ての小説では文字化せざるをえない。
きっと、陰陽五行思想が身近にあり、中華図像や中国語を自分の文化として豊かに使っている人たちは、「刁蛮公主」のテレビ放映を見ながら、これってあれだよね、と笑ったり、突っ込んだりしていたのだろう。
以上の、陰陽五行思想、図像、文字、故事成語、俗語、『論語』・『韓非子』などの観点から、この作品の裏をひもといていきます。
すごくディープでマニアックな分析になってくると思います。^~^
わたし自身が中国語を学習中で、そのほかいろいろにわか仕込みなので、
ご教授やつっこみをいただけたら幸いです。
「ザリガニ中毒」の人が増えたら嬉しいです。
ちるちる
2008/10/14
2008/11/04 改訂("「性善説」・「性悪説」"の項を追加)
2008/11/11 改訂("「性善説」・「性悪説」"の項を"「仁」か「法」か「私」か"に修正)