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朱允の「不仁」に腹が立つ

唯酒無量,不及乱 の記事で10集の朱允の温情処置のきっかけを読み解いてから、 彼は本来どうすべきだったか、を考えていたのだが(一日中こればっかり考えているわけではないが)、『韓非子』や『兵法』を開いて考えれば考えるほど腹が立ってきた。
なんで、丞相は朝廷の意向に反して難民を追放し、事件の真相究明を怠り、刑部に公文書偽造させてたのに、口頭注意ですむのか。
なんで、文韜は難民の生活拠点に放火したのに、咎ないばかりか、土地まで得られるのか。
ここは信賞必罰でいかなくてはいけない。そうでなければ臣官人民にしめしがつかない。

今回の処置は全然効果ないし、裏目に出るし!
酔っ払いの思いつきなんてあかん!

もう、物語がさっさと片付いちゃってもよかったから、こんな手ぬるい処置をすべきではなかった。
この挿話は「仁で人を治められるか」という実験だし、
DVDの中のコメディなんだし、このお話の人たちはみんな将棋の駒のように思想や言葉を体現するよう動かされてるんだし、物語には起伏も必要だし、・・・そう言っちゃあ身もふたもないのだが。

-----
君子务本,本立而道生。
『論語』巻第一 学而第一:
君子は本(もと)を務む。本立ちて道生ず(しょうず)。

君子は根本のことに努力する。根本が定まると(進むべき)道もはっきりする。
-----

・・・ほら、『論語』の有子だってこう言ってる。
ほんとうに「仁徳」で統制していたらきっと違う結果になっただろうけど、上辺だけの仁をなぞるのは、良くない。


この憤りのエネルギーをしばらく中国語の勉強に注ごうと思います。

唯酒無量,不及乱

▼10集
文韜ら文家の者に対する皇上の処置について、陳林と皇上の会話
陈林: 皇上您恩威并济,软硬兼施,这对付文家的效果太好了。
皇上: 这我是灵机一动。你别说。
这招还是昨天喝酒的时候受到小龙虾的启发呢。

「昨日酒を飲んでいたときに小龍蝦から启发(qi3 fa:ヒント、示唆)を得た」と皇上は言うが、
小龍蝦と皇上は事件の話なんかしてなかったし、どこから启发を?? とその酒盛りのシーンを見直す。
見直すまでに、下記の事件を復習。

(※文家に対する処置の顛末※
文韜は無登記の土地に自分の家を建てようとしていたが、小龍蝦が先に難民のための安民村をそこに作ったことに腹を立て、安民村を焼き尽くした。文韜はその際矢を受けて重傷を負い、父文章は司徒剣南を文韜傷害の犯人
に仕立て、刑部に指示し偽の供述を作成させ重犯にしようとした。
事件の発端はそもそも、朝廷の難民救護の意向にそむいて丞相文章が難民を城外に追いやったことであり、小龍蝦の自主的な救護活動を文韜がつぶそうとしたことであった。

朱允は事件の真相を最後には明らかにし文家の罪状を暴露批判したものの、文韜には既に重傷を負っていることから今回は罪を科さなかった。
朱允は文家を訪問し、文韜に土地を与え、文章に司徒家と反目しないように伝え、文薔に結婚の際には大きな贈り物をすると約束する。文家は皇上の温情に感謝し、皇上への忠義を誓う。)



文家を訪問する前夜、朱允は酒を持って白雲飛・小龍蝦に会いに行き、三人で酒を酌み交わす。
三人の酒盛りでの会話。
白云飞: 三弟,你真是海量啊。
朱允: 什么海量啊。我看他根本就是饮驴。行路渴驴喝水也就是一样。
小龙虾: 你才是行路渴驴哪。
二哥,你带的酒肯定是世上最好的。不喝多,多亏啊。
白云飞: 三弟,你怎么知道你二哥这儿有好酒呢啊。
小龙虾: 全天下就他的好酒多。他是个酒鬼嘛。

「小龍蝦の飲みっぷりはロバ並み」、と言う朱允に対して、小龍蝦は「二哥だって。こいつほどいい酒をたくさん持ってるやつはいないよ。のんべえだもの。」と言う。

白雲飛はこの小龍蝦のせりふから、朱允が皇上だと後に確信する。
(皇上には献上の酒がたくさんあるだろう、酒での外交も仕事だろう。)

一方の朱允自身が連想したのは、以下の言に違いない。
---
唯酒无量,不及乱。
『論語』巻第五 郷党第十:唯だ酒は量なく、乱に及ばず。

(孔子は)酒については決まった量はなく、いくら飲んでも乱れなかった(※「乱れるほどは飲まなかった」という訳もあるが、ここでは先述の解釈のほうが話に合う)。
---

「仁」の現身のような小龍蝦とのおしゃべりで、朱允は「酒飲みの仁」に思い至ったようである。
文韜の体を気遣い、この事件は過ぎたこととして今後悔い改めることを信じていると話し、彼に土地の権利書を贈った。

---
君子怀德,小人怀土;君子怀刑,小人怀惠。
『論語』巻第二 里仁第四: 君子は徳を懐い(おもい)、小人は土(ど)を懐う。 君子は刑を懐い、小人は恵(けい)を懐う。

君子は道徳を思うが、小人は土地(利・財力)を思う。君子は(徳の実践のための)法規を思うが、小人は恩恵を思う。
---

・・・こうしてみると、一見温情ではあるが、冷嘲热讽(leng3 chao2 re4 feng3)を含む処置である。
彼の今回の「仁」が本当に適切なものであったか、この後の物語の展開から見るとなんとも・・・。

ではどうすればよかったか、という話はまたいつか。
(ここで丸く治めちゃうと物語が終わってしまうので、まあ仕方ない。)

「朽木は彫るべからず」


▼3集
名乗りのあとで
小龙虾: (跟白云飞说)那你是孤陋寡闻,朽木不可雕也。
お前は学が浅いから教えようがないよ。

・・・暗に朱允/尹框を認めています。

孤陋寡闻(gu1 lou4 gua3 wen2)
成語:学識が浅く見聞が狭いこと。

朽木不可雕也
成語:朽木(きゅうぼく)は彫るべからず。朽木は柱にならぬ。堕落しきって教育の施しようがない。怠け者やろくでなしは使い物にならない。
朽木粪土(xiu3 mu4 fen4 du3)

・・・原典の論語の逸話のように、小龍蝦は「学のある朱允はその言葉から行動を信じられるだろうが、学のない白雲飛については言葉をきいて行動も見守らないと」と言いたいのかも。

以下、『論語』から。

宰予晝寝、子曰、朽木不可雕也、糞土之牆、不可朽也、於予與何誅、子曰、始吾於人也、聽其言而信其行、今吾於人也、聽其言而觀其行、於予與改是。

宰予(さいよ)、昼寝(ひるい)ぬ。子曰わく、朽木(きゅうぼく)は雕(ほ)るべからず、糞土(ふんど)の牆(かき)は朽(ぬ)るべからず。予(よ)に於てか何ぞ誅 (せ)めん。子曰わく、始め吾れ人に於けるや、其の言を聴きて其の行を信ず。今吾れ人に於けるや、其の言を聴きて其の行を観る。予に於てか是れ を改む。

『論語』公冶長第五:
宰予が勉強を怠けて昼寝をした。孔子は、
「腐った木は彫ることができない。ごみ土の垣根は上塗りできない。どうやって宰予を叱れば良いだろうか?私は始め人の言葉を聞いてその行動を信じた。しかし今は人の言葉を聞いたらその行動を見守るようになった。宰予のことで改めたのだ。」

「己を達せんと欲して人を達す」


▼1集 ~ 7集
小龍蝦は、住むところを追われた難民を救いたいと思い、
イカサマ賭博でもうけた金を彼らに与え、雲南国王子白雲飛から盗んだ財宝で粥棚を作り、住居・食べ物・医薬までまかなう安民村を作る。
皇上朱允は当初、行政対策を文章に任せていた。しかし、小龍蝦の資金調達のための盗みに乗じて摘発した斉国候の財宝を「国家のため、難民援助のため」と斉国候に認めさせ、大鉈を振るった。これによって難民の生活が安定する。加えて、小龍蝦の行動に共感した離恨天の静修らが資金援助し、白雲飛がさらに荘園と資金を提供する。

ここに投入されているのは、チンピラ万人敵らの人力であり、斉国候の裏賭博資金や軍資金であり、軍力を誇る雲南国財源による膨大な結納金であり、反朝廷組織:離恨天の資金と人力であり、朝廷の行政力である。彼らは小龍蝦の行動の結果、図らずも善行に加わることになる。

一見小龍蝦は他人の懐や力を利用しているようだが、実際には、苦しむ人を救いたいという善心から生じる行動で、少なからず彼らの心を動かし難民の助けに加わらせているのである。
別の混乱を引き起こすため誤解されている小龍蝦の人柄や行動を、皇上朱允は安寧公主や太后に説明する。説明するシーンそのものはないが、全体を見通す彼の説明は、「小龍蝦は難民のために村まで作った」という単純なものではないはずである。

▼3集
粥棚で人を助けているのは、粥棚を仕切る万人敵や、白雲飛の財宝を金に換え難民に分けた小龍蝦自身だけでないと小龍蝦は言う。
小龙虾: 其实做这善事的也不算是我了。
白云飞: 那是谁?
小龙虾: 他(白云飞)!
白云飞: 我?
    ・・・・・你那我家的珠宝做善事吗? 这些珠宝换成粥最好了。能救一些人命,太值了。

以下、『論語』から。

子貢曰、
如能博施於民、而能濟衆者、何如、
可謂仁乎、
子曰、
何事於仁、必也聖乎、堯舜其猶病諸、
夫仁者己欲立而立人、己欲逹而逹人、
能近取譬、可謂仁之方也巳。

子貢が曰く、
如(も)し、能く博く民に施して、衆を濟(すく)わば、何如(いかん)。
仁(じん)と謂うべきか。
子、曰(のたま)わく、
何んぞ仁を事とせん。必らずや聖か。
堯(ぎょう)舜(しゅん)も其れ猶(な)お、諸(こ)れを病(や)めり。
夫れ仁者は己れ立たんと欲して人を立て、己れ逹せんと欲して人を逹す。
能く近く取りて譬(たと)う。仁の方(みち)と謂うべきのみ。

※子貢=孔子の後継者、財産家として知られる。
※堯(ぎょう)、舜(しゅん)=ともに古代の理想的な聖天子。

『論語』[雍也第六]:
門弟の子貢が尋ねた。
「もし、多くの人たちに恩恵を施して救済することが出来たら、仁といってもいいですか。」
孔子が答えた。
「仁どころか、聖と呼んでいい。堯や舜のでさえ、なおそれを悩みとされた。
そもそも仁の人は、自分が立ちたいと思えば人を立たせてやり、
自分が行きつきたいと思えば人を行きつかせてやって、
他人のことでも自分のことのようにひき比べることができる。そういうのが、仁の手立てといえるだろう。」

「仁」にまつわる語


小龍蝦は仁徳の篤い子だが、それもそのはず。
中身は虾仁(xia1 ren2) エビの剥き身である。
吓人(xia4 ren2) だけど。


▼4集
文媚儿: 难民? 什么是难民啊?
朱允: 朱门酒肉臭啊...
この語句に「路有冻死骨」と続く。「朱門(金持ちの家)には酒や肉が腐るほどあまっているが、道には凍え死んでいる人がいる」

为富不仁(wéi fù bù rén)
成語:金持ちには血も涙もない。
・・・白雲飛も梁君卓もお金持ちです。


▼5集
小龙虾: 真是小白脸靠不住
ほんとに男前は当てにならない。

斉国候の蔵に盗みに入るのを手伝うといったのに、爽约(shuǎng yuē)(約束に背く)尹框のことを小白脸(男前)と言って罵る。

巧言令色 鮮なき(すくなき)かな仁
『論語』口先上手の顔よしは仁の心に欠ける。
と言いたいのである。